【事例解説】窃盗罪に近い器物損壊罪の逮捕事案
埼玉県春日部市の窃盗罪に類似した器物損壊事件ついて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部が解説します。
【事例紹介】
「埼玉県春日部市にある会社で働くAさんは、職場の同僚Vさんから嫌がらせを受けていました。
ある日、仕返しをしようと思ったAさんは、Vさんがデスクの引き出しに保管している私物を自宅に持ち帰ってごみとして捨てました。
その後も何回かVさんの私物を持ち出して処分し続けたため、不審に思ったVさんがデスク周りに小型の隠しカメラを設置すると、Aさんが私物を持っていく様子が記録されていたので、Vさんは埼玉県警春日部署に被害届を提出しました。
その後、Aさんは春日部署の警察官に逮捕されました。」
(この事例はフィクションです)
【嫌がらせの仕返し目的で相手の私物を持ち去ると窃盗罪?】
相手の物を勝手に持ち去って処分してしまうとどのような罪に問われるのでしょうか。
刑法235条の窃盗罪が成立するのではないかと思われる方が多いかと思いますが、窃盗罪が成立するためには、相手の私物を持っていく際に、その人に「不法領得の意思」という意思があることが必要になります。
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物とし、その経済的用法に従って使用し処分する意思のことをいいますが、前者の権利者を排除して他人の物を自己の所有物とする意思のことを権利者排除意思、後者の他人の物を経済的用法に従って使用し処分する意思のことを利用処分意思といいます。
事例のAさんは、持ち去ったVさんの私物を転売して利益を得ようというわけではなく、単に、Vさんの私物がなくなればVさんが困るだろうという嫌がらせ目的でVさんの私物を持ち去っています。
このような場合には、Vさんは不法領得の意思のなかの利用処分意思が欠けているということになって窃盗罪が成立しない可能性が高いです。
【利用処分意思がないと判断した判例】
利用処分意思がないとして窃盗罪が成立しないと判断されることが本当にあるのかと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、実際に、利用処分意思がないとして窃盗罪の成立を否定した判例があります。
今回取り上げた事例とは事件内容が異なりますが、学校の校長に恨みを持っていた教員が、校長を失脚させる目的で校長が管理していた教育勅語を持ち出して隠した事件で、大審院(現在の最高裁判所に相当します)は教員には利用処分意思がないとして窃盗罪は成立しないと判断しました(大審院大正4年5月21日判決)。
この判例は大正時代の判例ではありますが、現在でも利用処分意思を否定した判例として意義のある判例と考えられています。
【嫌がらせの仕返し目的で相手の私物を持ち去って捨てるとどのような罪になる?】
Aさんに窃盗罪が成立しないと考えられる場合に、Aさんは何の罪にも問われることがないのかというと、そうではありません。
Aさんは、Vさんの私物を持ち出して最終的にごみとして処分していますので、刑法261条の器物損壊罪が成立する可能性があります。
器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料となっています。
なお、事例ではAさんが持ち出して処分したものはVさんの「私物」となっていますが、Aさんが持ち出して捨てたものが書類であった場合は、その書類の種類次第で、器物損壊罪ではなく、刑法258条が規定する公用文書等毀棄罪や、刑法259条が規定する私用文書等毀棄罪が成立する可能性もあります。
公用文書等毀棄罪の法定刑は3か月以上7年以下の懲役刑となっており、私用文書等毀棄罪の法定刑は5年以下の懲役刑となっています。
【ご家族が逮捕されてお困りの方は】
ご家族が逮捕されてお困りの方は、弁護士に依頼して初回接見に行ってもらうことをお勧めします。
突然、警察に身柄を拘束されて自由に家族と話すこともできない状況になったご本人様にとっては、弁護士によるサポートが必要になるでしょう。
弁護士が接見に行くことで、ご本人様に事件の見通しや今後の手続きの流れ等の説明をすることができますので、ご本人様の不安に思う気持ちを和らげることが期待できるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部は刑事事件・少年事件を専門に取り扱う法律事務所です。
ご家族が逮捕されてお困りの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部まで一度ご相談ください。