・人身事故・死亡事故を起こした場合に成立する犯罪
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)に規定されています。
- これまで刑法211条2項に規定されていた自動車運転過失致死傷罪と,刑法208条の2に規定されていた危険運転致死傷罪を刑法から削除し,自動車運転死傷行為処罰法に組み込む,
- 従来の危険運転致死傷罪の対象類型に,「通行禁止道路の高速走行」と,「アルコール・薬物及び政令で定める病気の影響により,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれある状態での運転」を追加,
- アルコールや薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で,さらにアルコールや薬物を摂取したり,事故現場を離れて濃度を減少させたりなど,捜査を免れる目的で免脱行動をとった場合に対する罰則を新設,
- 危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪を犯した者が,そのときに無免許運転だった場合には免許ある場合に比べ刑罰を加重することが規定されました。
なお,従来人身事故により業務上過失致傷罪で処罰されていたものは,「過失運転致死傷」(自動車運転死傷行為処罰法5条)として処罰されます。
自動車運転死傷行為処罰法のまとめ
罪名 | 結果 | 刑罰・法定刑 | |
無免許運転以外の場合 | 無免許運転の場合 (6条) |
||
危険運転致死傷罪 (2条) |
死亡 | 1年以上の有期懲役 (最高20年) |
|
負傷 | 15年以下の懲役 | 6月以上の有期懲役 (1項) (最高20年) |
|
準危険運転致死傷罪 (3条) アルコール・薬物・病気 |
死亡 | 15年以下の懲役 | 6月以上の有期懲役 (最高20年) |
負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(2項) | |
発覚免脱罪(4条) | 死亡・負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(3項) |
過失運転死傷罪 (5条) |
死亡・負傷 | 7年以下の懲役、禁錮 又は 100万円以下の罰金 |
10年以下の懲役(4項) |
・危険運転致傷罪とは
従前刑法に規定されていた危険運転致死傷罪は適用するためのハードルが高く,悪質な運転者であっても,これが適用されない事案が多くありました。
自動車運転死傷行為処罰法では,軽度の飲酒でも危険運転致死傷罪が適用されることになっています。さらに,飲酒の発覚を免れるため,事故後さらに飲酒してごまかそうとした場合や,逃走して血中のアルコール濃度を減少させたような場合も処罰されることになりました。
また,無免許の場合は,刑が加重される規定も加わりました。
・具体的な類型
(1)危険運転致死傷罪
①酩酊運転(2条1号)
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。道路交通法上の酒酔い運転罪よりも要件が厳しい一方で刑罰が重くなっています。
薬物(危険ドラッグ)の影響により正常な運転が困難な場合も該当します。
②制御困難運転(2条2号)
進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
高速度とは,具体的に何キロと定まっているわけではありません。道路状況や事故状況に応じて判断されます。
③未熟運転(2条3号)
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
「進行を制御する技能を有しない」とは,基本的な自動車操作の技能を有しないことをいいます。
具体例としては,無免許であることが挙げられますが,長年ペーパードライバーであったような場合も含まれます。
④妨害運転致死傷(2条4号)
人または車の通行を妨害する目的で,通行中の人または車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
急な割り込み,幅寄せ,あおり,対向車線へのはみだし行為などにより,他車のハンドル操作を誤らせて死傷事故を起こしたような場合をいいます。
「妨害する目的」とは,動機であり,相手方に衝突を避けるための急な回避措置をとらせるなど,相手方の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいいます。
このことから,なんらかの事情でやむなく割り込むような場合には,相手方の通行を妨害することになると認識していても本罪は成立しません。
⑤信号無視運転致死傷(2条5号)
赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
「殊更に無視」とは,赤信号であることを認識している場合のみでなく,およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。
よって,赤信号を見落としてしまったという場合であれば,これには当たりません。
⑥通行禁止道路運転(2条6号)
他の時間は通行禁止になっていなくても,通学の時間に限って通行禁止になっている道路が,学校の近くの道などではありますので注意が必要です
(2)準危険運転致死傷罪(3条1項)
アルコールや薬物,あるいは一定の病気による影響により,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,自動車を運転し,よって,そのアルコール又は薬物,あるいはその病気の影響により,正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合に成立します。
人を負傷させた場合には,12年以下の懲役が,人を死亡させた場合には,15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷行為処罰法3条)。
「正常な運転が困難な状態」までいかなくとも,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で「正常な運転が困難な状態に陥り」人を死傷させた場合に成立します。
危険運転致死傷罪の適用のハードルが高かったことから,飲酒や薬物による影響が比較的軽度であっても同罪が成立しうることになりました。
(3)アルコール等影響発覚免脱罪
アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こし,人を死傷させた場合に,運転当時のアルコール又は薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で,さらにアルコールを摂取,あるいは,その場から離れアルコール又は薬物の濃度を減少させること等をした場合に成立します。
例えば,飲酒運転をして,人身事故・死亡事故を起こし,その場から逃走した場合や,水を大量に摂取してアルコール濃度を減少させた場合などが,発覚免脱罪に当たる行為です。
飲酒運転の逃げ得を許さないため,通常の場合に比べ,重い罰則を科しています。
なお,この犯罪類型を新設したことにより,その場から逃走した場合には,アルコール等影響発覚免脱罪(最高で懲役12年)とひき逃げ(最高で懲役10年)が成立し,最高刑は懲役18年になります。
(4)過失運転致死傷(5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(自動車運転死傷行為処罰法5条)。
前方不注視やスピード違反などの過失により,自動車事故で人を負傷させたり,死亡させたりする場合に成立します。
(5)無免許による加重(6条)
①から⑧までの罪を犯した者が,無免許だった場合,刑がさらに重くなることになりました。(「未熟運転)は除く)
~人身事故・死亡事故における弁護活動~
①人身事故・死亡事故に至る経緯・事件の全体像の把握
人身事故・死亡事故で警察に検挙・逮捕され刑事事件となった場合,初犯の過失運転致死傷罪で,かつ被害が軽微であったり,過失の態様が軽微であったりする場合は,罰金で済むことも考えられます。
しかし,危険運転致死傷罪や発覚免脱罪は,刑事事件の中でも重い法定刑が規定されています。
そのため,危険運転致死傷罪や発覚免脱罪の場合,起訴されると正式裁判になってしまいます。
裁判所での審理の結果,懲役の実刑判決が言い渡されることになれば,刑務所に入ることとなります。
弁護士は,人身事故・死亡事故に至った経緯や動機,当時の状況,その他の事情を精査し全体像を把握した上,適切な弁護方針をご案内いたします。
逮捕直後から,人身事故・死亡事故に強い弁護士が弁護を引き受けることで,一貫した弁護活動を行うことができます。
②不起訴処分や刑の減軽・執行猶予の獲得
人身事故・死亡事故は,被害者がいる犯罪であるため示談解決がポイントとなります。
示談は契約ですので,被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが,被疑者が捜査機関に被害者の連絡先を聴いても教えてもらえないのが通常です。
また,仮に連絡先を知っていたとしても,相手方の被害感情が強い場合,直接被疑者が被害者と交渉を行うのは非常に困難です。
弁護士を通じてであれば,検察官から被害者の連絡先を教えていただける可能性が高まり,被害者とコンタクトをとりやすくなります。
さらに,弁護士が間に入れば,冷静な交渉により妥当な金額での示談解決を目指せるといえます。
③早期の身柄解放
人身事故・死亡事故で警察に逮捕・勾留された場合,容疑者・被告人が反省しており逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを客観的な証拠に基づいて説得的に主張していきます。
早期に釈放されることで,会社や学校を長期間休まずに済み,その後の社会復帰をスムーズにすることができます。
④環境調整
重大事故を起こした場合や交通事故の前科がある場合は,運転免許を返納した上で車を売却する等の検討も視野に入ってきます。
また,職場の近くに転居するなど車を使わなくても生活できるよう環境を調整していく必要があります。
環境調整のための様々なアドバイスを致します。
人身事故・死亡事故を起こして警察等の捜査機関に取り調べ又は逮捕された方、人身事故・死亡事故で刑事裁判を受けることになってしまった方は、交通事件の実績豊富な弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部までご相談ください。
さいたま市を中心に埼玉県及び関東地方一円の刑事事件・交通事件を専門に取り扱う弁護士が,人身事故・死亡事故案件における刑事処分の見通しと取り調べ対応、前科回避や減刑に向けた対応方法等をアドバイスいたします。
交通事故の当事者が逮捕・勾留等による身体拘束を受けている身柄事件の場合、最短即日に、弁護士が留置場や拘置所等の留置施設まで本人に直接面会しに行く「初回接見サービス」もご提供しています。