【報道解説】刑法改正で新設の不同意わいせつ罪の逮捕事案
令和5年7月13日施行の改正刑法において新設された「不同意わいせつ罪」の逮捕事案を紹介しつつ、その刑事責任と弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所さいたま支部が解説します。
【報道事例】
電車内で女性に痴漢をしたとして、埼玉県警は7月14日、さいたま市建設局職員の男(23歳)を不同意わいせつ罪の疑いで逮捕し、発表した。
「太ももは触っていないが、ふくらはぎは触った」と容疑を一部否認しているという。
埼玉県警大宮警察署によると、男は13日午後、JR埼京線の電車内で2人用座席の隣に座った20代女性の太ももやふくらはぎをなでた疑いがある。
男は他の乗客らに促されて次の停車駅で降り、駅員が110番通報したという。
不同意わいせつ罪は、13日施行の改正刑法で定められた。暴行・脅迫や恐怖・驚愕、地位利用など8項目の要因で同意しない意思を示すのが困難な状態にさせ、わいせつな行為をした場合に成立するとされる。
埼玉県警は8項目のうち、「予想と異なる事態に起因する恐怖・驚愕」によって被害者が不同意の意思を示せなかったと判断し、逮捕に踏み切ったという。不同意わいせつ罪の法定刑は6カ月以上10年以下の懲役。
(令和5年7月14日に配信された「朝日新聞デジタル」の記事を基に、事実を一部変更したフィクションです。)
【刑法改定:不同意性交等罪の新設】
令和5年7月13日をもって、「不同意わいせつ罪」が施行されました。
不同意わいせつ罪の新設の背景には、近年における性犯罪をめぐる状況に鑑み、構成要件の明確化と細分化を進め、以てこの種の性犯罪に適切に対処する必要があるとの理由に基づいています。
このたびの刑法改正により、旧刑法の「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」「強制性交等罪」「準強制性交等罪」を統合し、新法における「不同意わいせつ罪」および「不同意性交等罪」を規定することになりました。
あわせて、性犯罪についての公訴時効期間の延長や、被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設なども盛り込まれています。
【不同意わいせつ罪とは】
本ブログでは、主に不同意わいせつ罪の構成要件と法定刑にしぼって解説します。
不同意わいせつ罪では、「次のような行為」等により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず処罰されることになります(刑法第176条第1項)。
「次のような行為」等を簡潔にまとめると、「暴行若しくは脅迫」、「心身の障害(おそれも含む)」、「アルコール若しくは薬物の摂取」、「睡眠その他の意識不明瞭状態」、「不同意を形成・表明するいとまがない」、「予想と異なる事態への恐怖・驚愕」「虐待に起因する心理的反応」、「経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」の8項目が列挙されています。
改定前の強制わいせつ罪でも「暴行」もしくは「脅迫」が構成要件になっており、この「暴行」「脅迫」は、被害者の犯行を著しく困難にする程度のもので足り、犯行を抑圧する程度に達する必要は無いとされていました(最高裁判例)。
被害者の犯行を著しく困難にする程度とは、具体的には、犯行態様のほか、時間的・場所的状況、被害者の年齢や精神状態等を考慮して客観的に判断されるとされていました。
今回の刑法改正は、上記のような総合的判断から踏み込んで、より具体的な構成要件を提示することで処罰範囲の明確化を図るべく改定されたものと思われます。
不同意わいせつ罪の法定刑は、六月以上十年以下の拘禁刑となっています。
【不同意わいせつ罪の刑事弁護】
今回の刑法改正によって不同意わいせつ罪が新設されましたが、従来の性犯罪に対する刑事弁護の原則どおり、前科が付くことを避けたい場合は、検察官に事件を起訴される前に被害者の方と示談を締結することが重要になります。
というのも、起訴前に被害者の方と示談を締結したという事実は、検察官が起訴をするかどうかの判断に当たって起訴を回避する判断に傾く考慮要素となるからです。
示談交渉は通常、被害者が成人であれば被害者本人と交渉を進めますが、被害者が未成年である場合は、被害者の保護者の方と示談交渉を行うことになります。
性犯罪全般の傾向として、被害者の方は、不安や恐怖に怯え、傷つけられた自尊心から犯人を許せないという処罰感情が強く、示談が難航することは珍しいことではありません。
しかし、刑事弁護の経験豊富な弁護士が、粘り強く謝罪や示談の条件を提示し、二度とこのような犯罪を起こさないと制約すること等を通じて、最終的に示談の締結に至る実績も多数ございます。
示談交渉は必ずしも決まった方法があるわけではなく、被害者の方が何を望んでいるのかを汲み取り、それに対して最適な問題解決案を提示することが最も重要ですので、示談締結の確率を少しでも上げたいと希望する方は、示談交渉の経験が豊富な弁護士に依頼されることをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門に取り扱う法律事務所で、示談交渉の経験が豊富な弁護士が在籍しております。
不同意わいせつ罪の性犯罪で被害者の方との示談を考えている方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談や初回接見サービスをご利用ください。